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泣いている女の子を放っておけなかった話

夕方に受付スタッフから報告を受けた。


「通院中の患者様が受付窓口に用があって来院するのですが、お子様が歯が痛くて泣いているそうなので、ついでに診てもらえないかとの事です。もし無理ならお薬だけでも欲しいと言う事なので、痛み止めを、お出してもよろしいですか?」

歯医者ではよくある何気ない報告。

ここで僕の返答を書く前に押さえておくべきポイントがある。

基本的に、当院は完全予約制を謳っていている為、ご予約の患者様に一切迷惑のかからない範囲でのみの対応しか出来ない。

②電話をしてきた患者様も、電話を受けたスタッフもその事をよく理解している為、無理に治療して欲しいとゴリ押ししていない。
#我が儘ゴリ押しは絶対に対応しない

③来院する時間帯に【予約の空き】は無く、対応出来るスタッフの人員も足りない

4歳の女の子である。

これを踏まえた上で瞬時に返答しなければならない。

可愛そうだと感情に絆されれば診れば良い。ただ物理的に他のご予約の患者様には確実に影響が出る事が予想され、これまで守ってきた完全予約制は崩れる。

僕の回答はこうだった
状況がわからないのに薬だけ出す事は出来ないから、診れるお約束は出来ないけど、来てから少し待ってもらえるか確認してみて下さい」

この時考えたのは、その後の治療のペースを少しづつ早めて隙間時間が出来たら対応出来るかも?

だった。

少しすると待合室から小さな女の子の泣き声が聞こえてきた。

本当に痛くて辛そうな泣き声だった。

取り敢えず、状況を確認し診断だけでもしてあげようと診療台に通した。

レントゲンを確認すると虫歯が完全に歯の神経まで及んでいた。

これは中途半端な応急処置ではかえって痛みが強くなる可能性が高い状態だった。

生切(生活歯髄切断法)という処置が適応と判断したが、4歳の女の子の初めての麻酔注射を使った治療に加え、僕に許されている時間は15分。

もし、大人しく麻酔させてくれたとしてもギリギリすぎる時間だった。

そこで、次の予約の患者様に思い切ってお願いしてみた。

「予定していた処置まで終われないかも知れませんが、あの泣いている女の子を助けたいので治療のお時間を譲って頂けませんか?」

と尋ねると

笑顔で快く「いいですよ」と譲ってくれた。

ありがたく、その方から治療時間を頂き、無事に女の子の治療を行い、痛みを取ってあげる事が出来た。

ここで、不利益が生じたのは女の子の為に自分の治療時間を譲ってくれた患者様だが、後にしっかりとその分フォローするつもりだ。
#倍返しだ

何が言いたいかというと、最近は当院のように【完全予約制】を謳っている歯科医院が増えてきているが、完全予約制を遂行するのはそんなに甘いものではない。

目の前で困っている患者様の治療をお断りするには、患者様への十分な説明とスタッフの高い理解度が要求される。

怒りを買うことだってあれば、当初はスタッフから白い目で見られる事も経験してきている。

それでも、予約は患者様との大切な最初の契約であり【お約束】と考え、1分たりとも遅れない事を周知徹底してきた。

感情に任せて誰かを救えば、誰かが泣かなきゃならなくなる。

僕が【その時間】に手を差し伸べられるのは1人なのだ。

それにしても平和的な解決だったと胸を撫で下ろした瞬間だった。

by tsukidate-dc | 2022-01-04 23:36 | Dr.勇樹 | Trackback | Comments(0)  

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