ヨーグルトと歯周病 第2弾
前回は、ヨーグルトに含まれる乳酸菌Biofidobacterium animalis 種を主成分としたプロバイオティクスの、口腔内細菌に対する効果について文献ベースで検証しました。
今回はプロバイオティクスの摂取が実験的に惹起された歯肉炎の炎症反応や歯肉縁上プラークの組成にどのように影響があるかを文献ベースで検証したいと思います。
Literature
Hadar Hallström, Susann Lindgren, Tülay Yucel-Lindberg, Gunnar Dahlén, Stefan Renvert, Svante Twetman:
Effect of probiotic lozenges on inflammatory reactions and oral biofilm during experimental gingivitis,
Acta Odontologica Scandinavica, 71(3-4): 828-833, 2013.
目的
プロバイオティクスの摂取が実験的歯肉炎モデルにおいて、炎症反応や歯肉縁上プラークの組成にどう影響するのか?
材料と方法
健康な女性18人(平均年齢38歳)が対象。選択基準は、歯肉炎スコアが0、歯周病の既往がないこと。
妊婦または授乳者、コントロール不良の糖尿病患者、抗菌薬、抗炎症薬あるいは歯肉増殖に影響を与えるような薬剤を投与されている場合は除外された。
実験は2つの期間に分けられ、被験者は最初の3週間、プロバイオティクス[ Lactobacillus reuteri (ATCC55730 と ATCCPTA5289) 含有ロゼンジ剤]またはプラセボ剤を1日に2回摂取した。
次に、週に5回の歯面清掃が行われた後に2回目の実験期間が開始され、最初の期間にプロバイオティクスを摂取した対象者はプラセボを、プラセボを摂取していた対象者はプロバイオティクスを摂取した。
被験者はそれぞれの実験期間中、ブラッシング時に第2小臼歯から第2大臼歯部をカバーするマウスガードを装着して、第1大臼歯頬側面に歯ブラシが当たらないようにしてプラークを堆積させた。
それぞれの実験期間開始時(ベースライン時)および終了時(3週間後、フォローアップ時)に、プラーク指数、歯肉炎指数、プロービング時の出血が記録された。また、歯肉溝滲出液(GCF)が採取され、7種類の炎症メディエイター(IL-1B、IL-6、IL-8、IL-10、IL-18、TNF-α、MIP-1β)の分析が行われた。さらに、歯肉縁上プラークが細菌学的分析のため採取され、Porphyromonas gingivalis、Prevotella intermediaなどの18菌種の定量が行われた。
結果
すべての被験者でプラークの堆積とあきらかな歯肉炎の発症がみられた。両方のグループで GCF量の増加がみられたが、プラセボ群のみ統計学的に有意だった。IL-1B、IL-18の濃度は有意に増加しましたが、IL-8、MIP-1Bは減少しました。しかし、プロバイオティクス群とプラセボ群とで、統計学的有意差はみられなかった。また、細菌学的にも差異がみられなかった。
結論
プロバイオティクスのロゼンジ剤の日々の摂取は、プラークの堆積、炎症反応またはバイオフィルムの組成に、あきらかな影響を与えませんでした。
関野先生の解説
本研究には、「実験的歯肉炎」モデルが用いられています。すなわち、ある一定の期間、被験者に意図的にすべての口腔清掃を中断させて歯面にプラークを堆積させ、歯肉炎の発症を起こすというものです。このエ
デルは、洗口剤のプラーク形成抑制効果や歯肉炎抑制効果を検証するのによく使われます。本研究の場合、ブラッシングを行わない期間にプロバイオティクスを摂取した場合と摂取しなかった場合で、形成プラーク
の量や組成、歯肉の炎症状態に違いが出るかどうかを検証したわけです。
本研究では、それを第1大臼歯頬側面のみに対して行っているわけですが、このようにまったくブラッシングをしないことが日常の臨床であり得るのか、疑問に思われるかもしれません。しかし、実際には、歯ブ
ラシが当てられない部位や当てにくい部位というのは患者ごとに決まっており、ある部位はまったく清掃ができておらず、プラークが蓄積し続けていることはよくあります。このモデルは、そのような状況をある程
度シミュレーションしているといえるでしょう。
また、この実験モデルでは、あまり長い期間の研究はできず、3週間が限度でしょう。したがって、確認できる効果は「短期間」ということになります。そして、みているのはあくまで「歯肉炎」です。
このように、同じ被験者が異なる薬剤などを違う時期に摂取して、その効果を比較するような研究デザインを、「クロスオーバーデザイン」といいます。この研究デザインの利点は、同じ被験者で比較できること
から個体差の影響がなく、被験者数が少なくて済むことにあります。しかし、あまり長期間の研究には向いていないという欠点もあります。
以上のように、比較的短期間の効果しかみられない欠点はありますが、プラセボ群があり、二重盲検も行われ、研究自体のクオリティは比較的高いものと考えられます。したがって、残念ながら現状では Lactoba-
cillus reuteri 含有のプロバイオティクスのあきらかな効果は証明されていないといえるでしょう。
プロバイオティクスの歯周病に対する効果についてのシステマティックレビューが、2013年の『Clinical Oral Investigations』に Yanine らにより発表されています。そこから得られた結論も、歯周病患者に対してプロバイオティクスを適用することの効果はあきらかではないとなっています。
僕の考察
関野先生の解説にもありましたが、今回の論文ではあくまでも「歯肉炎」が対象であるとしていますが、実はこの歯肉炎を本当の意味で理解する歯科医師は多くないです。
例えば、「歯肉炎と歯周炎」の違いは日本の歯科大学の教育や国家試験では【付着の喪失の有無】と定義されています。
しかし、本質的な事を言えば、歯肉炎も歯周炎も同じなのです。
これがちゃんと理解出来ていない専門家がいるせいで間違った用語がまかり通っています。侵襲性歯周炎とかね、、、
ここで、歯肉炎を強調した理由は今回の研究デザインではあくまでも歯肉縁上プラークの組成にフォーカスを当てているという事です。
システマティックレビューについては以前解説したので割愛しますが、やはり「実験的歯肉炎モデルでは、プロバイオティクスによるプラークおよび歯肉炎抑制についての明らかな効果は認められませんでした」といわざるを得ません。
比較的短期間の研究なので、長期的に観察できる研究デザインの実施に期待したいところです。
現場からは以上です!
こちらは今回の論文の共著であるGunnar Dahlén先生の講演会に参加した時の写真です。
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