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質問コーナーpart4.1

本当に久しぶりの質問コーナーになってしまいましたが、再開します。

メディアで騒がれる画期的な治療法や万能薬的ニュースは、いつもセンセーショナルに一気に広まりを見せるのですが、検証の結果、意味がなかったとされ、いつしか人知れず消えていく事が少なくありません。

あの時あれだけ騒がれた『あの治療法はどこへ?』

数えてもキリがないので古いものは忘れてあげます。


さて、近年(2〜3年前?)TVの情報番組等でも取り上げられていたヨーグルトと歯周病について、患者様からの質問も少なくないので考察、解説したいと思います。

「ヨーグルトで歯を磨くと歯周病の予防になる」

このトピックを目耳にした方も少なくないのではないでしょうか?

ヨーグルトそのもので歯磨きをした場合の研究論文は今のところ見当たらないのですが、ヨーグルトに含まれる乳酸菌Biofidobacterium animalis 種を主成分としたプロバイオティクスの、口腔内細菌に対する効果について検討している文献を見てみましょう。

Literature
GS Pinto, MS Cenci, MS Azevedo, M Epifanio, MH Jones: 
Effect of Yogurt Containing Bifidobacterium animalis subsp. lactis. 
DN-173010 Probiotic on Dental Plaque and Saliva in Orthodontic Patients. Caries Research, 48(1):63-68, 2014.

目的
乳酸菌Biofidobacterium animalis 種を2週間摂取した場合のミュータンスレンサ球菌、乳酸桿菌のコロニー形成数および総菌数に及ぼす影響を評価する


材料と方法
クロスオーバーデザイン、二重盲検によりプラセボを対照群としたランダム化臨床試験で、固定装置を装着した矯正治療中の患者30人が対象となった。これらの対象者は、15人ずつ2つのグループに分けられた

本研究は4つのピリオド(段階)に分けられた。第1ピリオドは1週間で「導入期間」、第3ピリオドは4週間で「洗い出し期間」に設定された。第2ピリオドと第4ピリオドでは、被験者はヨーグルト含有のプロバイオティクス、または対照となるヨーグルト 200gを2週間毎日摂取した。被験者の半分は第2ピリオドにプロバイオティクスを、第4ピリオドにヨーグルトを摂取し、他の半分は第2ピリオドにヨーグルトを、第4ピリオドにプロバイオティクスを摂取した。
各ピリオドの最終日に、刺激唾液と犬歯および大臼歯のブラケット周囲からプラークが採取された。被験者は、これらのサンプリングの12時間前から口腔清掃をしないように指示された。その後、培養が行われ、ミュータンスレンサ球菌、乳酸桿菌のコロニー形成数および総菌数がカウントされた。


結果
研究期間中、4人がドロップアウトした。ヨーグルト含有プロバイオティクスと対照群のヨーグルトで、あらゆる指標において統計学的有意差がみられなかったプラーク中の総菌数は、ヨーグルト含有プロバイオティクス、またはヨーグルトの摂取後、有意に減少した。しかし、唾液中の総菌数に有意な減少はみられなかった。


関野先生による解説
本研究は矯正用ブラケットを装着している患者においてヨーグルトに含まれる乳酸菌Biofidobacterium animalis 種を含んだプロバイオティクスの口腔内細菌への効果を、ヨーグルトを摂取した場合と比較したものです。

まず、矯正装置を装着しているため、通常よりもプラークを除去しにくい口腔内環境の患者が対象であることを考えなければなりません。

本研究の主要評価項目は、口腔内細菌数です。すなわち、プラーク中、および唾液中の総菌数、ミュータンスレンサ球菌数、乳酸桿菌数です。

つまり、初期のプラーク形成や、う蝕原性のある細菌がおもに調べられています。1つ残念なのは、プラークの付着が調べられていないことです。ブラケットを装着している患者が対象で、プラークスコアが採取しにくかったことがその理由として考えられますが、Silness と Löe のプラーク指数のような、歯と歯肉の境界部に付着したプラークのみを対象とする指標を用いるなどして、記録すべきであったと考えます。

本研究のデザインから得られる情報は、「ヨーグルト中の細菌を主成分としたプロバイオティクスの摂取により、ヨーグルトそのものを摂取した場合と比べて口腔内の細菌数が大きく変わるのか」ということです。
結果として差異はありませんでした。

また、両方のグループでプラーク中の総菌数のみ、有意に減少したという結果になりましたが、これはヨ
ーグルト中の細菌の影響とはいえません。なぜなら、「ホーソン効果」といって、研究に組み込まれることで注目されて得られる効果による変動の可能性が大きいからです。このような比較研究は、基本的に比較対
象との「相対的な差」があるかどうかに着目すべきで、各グループそれぞれにおいてどの程度変化したのかは、それほど意味をもたない場合も多いと考えられます。

それでは、最初に書いた「ヨーグルト歯磨き」の効果についてはどう考えればよいでしょうか。少なくとも、本研究ではヨーグルトの効果は証明されませんでした。また、筆者が知るかぎり、このことを証明した
クオリティの高い介入研究は他に存在しないようです。したがって、いまの段階では患者に勧めるべきではありません。


僕の考察
論文の読み方を知らない人や、経験が浅い場合、今回の論文の結果を受けて、「○年の誰々の文献では、結果としてヨーグルトは口腔内細菌を有意に減少させた」と捉える人は少なくないと思います。

専門家にそう言われちゃったら信じちゃいますよね。

一つの文献でも、解釈によって結論がわかれる事があるということです。

これまでもEBMについては解説して参りましたが、文献を読む時に大切なのは、批判的吟味です。

その際、材料と方法について正しく検証されているかどうかを見極める能力が必要となります。

関野先生の解説でも出てきましたが、ホーソン効果とは、治療を受けるものが信頼する治療者(歯科医師等)に期待されていると感じることで行動の変化を起こすなどして、結果的に病気が良くなる、または良くなったように感じる、または良くなったと治療者に伝える現象を指し、プラセボ効果の一部として統計上扱われる場合もあります。

今回の研究デザインでは、このホーソン効果の存在が検証バイアスとして懸念される事は明らかなので、やはり、プラークスコアは記録するべきだったろうと思います。

とは云え、例えさらに3重盲検でプラークスコアを記録したところで、被験者は何かしらの実験に参加していると認識しやすい内容であるため、完全に検証バイアスを排除するのは困難かも知れません。


今回の結果から考察しなければならない最も重要な点は2点あります。
①プロバイオティクスによる口腔内細菌への効果は証明されなかった。
②プラーク中の総菌数のみが有意に減少した原因の究明には、よりクオリティの高い研究デザインでの検証が必要である

以上のことから、現時点では臨床で患者様に勧められるようなトピックではないと言えます。

現場からは以上でーす!
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by tsukidate-dc | 2021-04-08 08:36 | Dr.勇樹 | Trackback | Comments(0)  

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