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補足の補足

陰謀を暴くような投稿をするようになってから、明らかに読者が減りました(笑)

仕方がないですね。

自業自得です。
#確信犯

辞める気は一切ないので、気になる方は時々覗いてみて下さい!




さて、今日は以前にも考察した内容について、現在得られているエビデンスの中から、さらに深掘りしたいと思います。
#学術的考察はここから始まる

▼「食後30分は歯磨きをしないほうが良い?」を文献ベースで検証します。

皆様から寄せられる質問の中から最近特に関心の高いものを抜粋しております。

▼こちらは昨年10月30日に投稿した記事です▼

今回は補足の補足です。

※以下論文解説では、簡単にまとめたものであっても読み慣れていない方にとっては少し難易度が高いかも知れませんが、頭の中で【絵】がイメージ出来れば理解しやすいです。

【エビデンスベースでの考察】

Literature
Adrian Lussi, Jonas Lussi, Thiago S Carvalho, Barbara Cvikl: Toothbrushing after an erosive attack: Will waiting avoid tooth wear?. 
European Journal ofOral Sciences, 
122(5): 353-359, 2014.

目的
ヒトの唾液による再石灰化時間の違いによってエナメル質の酸蝕による耐摩耗性が影響を受けるかを評価し、さらに唾液の個体差が酸蝕の程度に影響を与えるかを分析する


材料と方法
170本のヒトの抜去歯が用いられた。歯冠部が切断され、レジンで包埋、研磨され、平滑なエナメル質表面のサンプルが作製された。これら170個のサンプルは5つのグループに分けられた。

•グループ1 酸蝕させず、唾液に晒さない
対照群n=10)
•グループ2 酸蝕させ、唾液に晒さない
(n=10)
•グループ3 酸蝕させ、唾液に30分浸す
(n=50)
•グループ4 酸蝕させ、唾液に2時間浸す
(n=50)
•グループ5 酸蝕させ、唾液に4時間浸す
(n=50)

グループ3〜5は供給者ごと(各n=10)の唾液の分析も行われ、5人の健常なヒトからパラフィンを噛む事で得られる刺激唾液が採取された。

最初に全てのサンプルの微小硬さ(SMH : ヌープ硬さ)が測定された。

※ヌープ硬さとは?
硬さを表す尺度で、値が大きい程硬い。
(金が60、ダイヤモンドが8000)

その後、対照群であるグループ1のサンプルは湿潤したチャンバーに入れられた。

その他の全てのサンプルは50mlのオレンジジュース(ph3.6)に3分間浸されることで酸に晒された。

水洗乾燥後、グループ2のサンプルは湿潤したチャンバーに入れられた。

グループ3のサンプルは37℃の唾液中に30分浸された。

グループ4のサンプルは2時間、グループ5のサンプルは4時間浸された。

その後、全てのサンプルは水洗乾燥され、再びSMHが測定された。

そして、これらのサンプルにブラッシングが行われた。ブラッシングには歯磨剤と人工唾液を混合したものを用いブラッシングマシンにより1.5Nの力で50ストローク行われた。

水洗乾燥後、酸蝕による摩耗(ETW:nm)の測定が行われた。また、採取された唾液の流出速度、緩衝能、カルシウムおよびタンパク質濃度の測定が行われた。
さらに、走査型電子顕微鏡により、サンプル表面の状態が観察された。

結果
各サンプルの微少硬さ(SMH)の平均値は、グループ2で352から305、グループ3で348から289、グループ4で346から289、グループ 5で347から297にそれぞれ有意に減少した。また、ブラッシングによる ETW は、グループ2〜5の間で統計学的有意差はみられなかった

個々の唾液の特性に関しては、ETW が最も少なく、SMHの減少も少なかった被験者は、唾液緩衝能やカルシウム含有量が最も高く、唾液流出速度とタンパク量も比較的高い傾向がみられた。しかし、これら唾液特性と結果との間には統計学的有意差は認められなかった。走査型電子顕微鏡においては、ブラッシングが行われたすべてのグループにおいて、酸蝕された歯面の典型であるわずかな傷と不明瞭なエッチング面が観察された。

結論
これらの結果から、本論文の筆者らは、酸蝕の場合、う蝕の場合の再石灰化時に起こる無機質の沈着がみられず、そのコンセプトは見直すべきであるとしていました。同時に、唾液に晒される時間が長い場合でも、
それによる効果がみられなかったので、酸蝕されたのちにブラッシングを行うタイミングを遅らせるというコンセプトも再考すべきであるとしていました。

この論文を解説した関野先生の考察
まず、食後に歯ブラシを行う時間を遅らせるというコンセプトは、酸蝕症を考慮しての話であることを理解しなければならないとしています。その背景には、特に米国において近年酸蝕症が高頻度でみられるようになったことがあるとの事です。その理由として清涼飲料水などの酸蝕を引き起こす飲料水や食物の摂取が多い事が考えられているわけです。

今回の研究では、抜去歯を実験室で処理した研究であるため、臨床研究ではありません。実際に臨床で起こる現象とは相違がある可能性もあるとの見解です。
例えば、生体では歯の表面にペリクル(獲得被膜)が形成され、それが歯の表面を摩擦から守っている効果もあると考えられますが、この実験モデルでどのくらいペリクルが形成されているかは不明です。
しかし、研究の目的も明瞭で、in vitro (試験管内)ではあっても極力臨床を想定していることは評価できるでしょう。このモデルにおいては、ブラッシング時間を遅らせることのメリットはみられず、一般的には口腔衛生が不良の場合のほうが問題になるため、推奨すべきコンセプトではないように思えます。ただし、酸蝕症による実質欠損が著明な患者には適応すべきなのかもしれませんが、いまのところ臨床研究によるあきらかな結論が出ていません。今後、臨床研究で実施可能なモデルが開発され、よりあきらかな結論が得られることを期待したいとのことでした。
#僕にEBMを叩き込んでくれた先生なので考察の着眼はほぼ一緒

さて、僕の結論としては、これまで皆様にお伝えしていた通りでございます。

改めて、この実験での結論のポイントとしては
①酸蝕後、ブラッシングを行う時間を最大4時間まで空けても、そのメリットは認められませんでした。

②現在のところ「食後30分はブラッシングしない方が良い」とされるコンセプトの根拠はなく、酸蝕症による実質欠損があきらかな患者に限って考えるべきであろうということです。

いつも皆様には結論のみを分かりやすく伝えているつもりではいますが、一言で言語化して伝える背景はこんな感じですよ!ということで紹介してみました。

現場からは以上です!
補足の補足_a0135326_17245418.jpg


by tsukidate-dc | 2021-04-05 23:23 | Dr.勇樹 | Trackback | Comments(0)  

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