補足です
同じような不安を持っている方がおられるかはわかりませんが、今日はその時にお話した内容について、さらに詳しく触れてみたいと思います。
(解説)
歯周病の原因は「細菌」です。とくにP.g菌(菌の名前の略語です)に代表される嫌気性菌が原因である可能性が高いと考えられています。そのため、歯周病を診断する場合に菌の検査を行うことは有意義に思われるかも知れません。しかしながら実際はこれらが本当に歯周病の「原因菌」なのかどうかは、統一した結論が出ていません。口腔内の常在菌は300~700種類あると言われていますが、それらの多くはいまだ同定すらされていないのです。その状況で、一部の菌が歯周病と関連があったからといってそれらを原因菌と言い切ってしまって良いのか、疑問視されているわけです。とはいうものの、歯周病はプラーク中の細菌による感染が原因なのは間違いないですし、P.g(菌名)などは「限りなく黒に近い容疑者」と言えるだけのエビデンス(根拠)はあると思われます。しかし、歯周病の場合、結核や梅毒のような「外因性」(体外から)の感染とは分けて考えなければなりません。
このような「外因性」の疾患は、通常体内に存在しない菌が感染する事で初めて成立するので、これらの原因菌をやっつける事で疾患は治癒します。しかし、口腔内常在菌が原因であると考えられている歯周病ではこれが当てはまりません。なぜなら、健常者からも普通に「病原菌と考えられている菌」が検出されるからです。結局は菌を全て除去しなくても、疾患を引き起こすまでに達しない程度まで減らす事ができれば、歯周病は治癒するのです。しかし、どの程度減らせばよいのかの基準はまったく確立されていないですし、宿主側の感受性(菌に対する個人差)にもよるので確立しようがないと思われます。
歯周病のような常在菌に起因する疾患の場合に、何をもって「治癒」を判断するのかといえば、「生体の反応」をみる事なのです。それをみるのに最も有効な方法は、現在のところやはりしっかりとプロービングする事(歯周組織検査)なのです。この概念を理解せずに歯周病を単純に感染症と捉えて細菌検査のみで診断しようとしてしまうと、出血部位もポケットもない患者さんから菌が検出されたというだけで、抗菌剤(抗生物質)を処方するというような明らかに間違った治療をしでかしかねないのです。(菌をカメラで見せて、これが歯周病菌です。と言って薬を出すような治療も同じです。)
当院でも、応急処置の手段として、急性症状があった場合に限り、処方する事がありますが、あくまでも一時的な対応であり、原因除去治療になりえない事をご理解いただきたいと思います。
口頭での説明を、より詳細に記載しましたので参考にして頂ければ幸いです。大事なのは「治す」事、そして「治療後の良い状態を維持」する事です。その時に患者さんにも説明しましたが、そういった治療を受けてきたにもかかわらず、歯周病は現在進行中なわけですから、これからしっかりと治療して、患者さん自身が実感する事で初めて納得していただけるのではないでしょうか。
by tsukidate-dc | 2012-02-01 20:46 | Dr.勇樹 | Trackback | Comments(0)